ゼニスの代名詞でもあり、スペイン語で“No.1”を意味するエル・プリメロは、1969年の誕生からいまだ幅広い可能性を秘めたムーブメントです。
機械式クロノグラフにとってひとつの理想がありました。それが、多くの時計技術者が追求した毎時36,000振動。※1秒間1振動、すなわち1/10秒まで計測できるということになります（10×60秒×60分=36,000振動）。
量産機としては、現在でも比類のない性能を誇り、その圧倒的な高さの精度は、まさにゼニスの名に相応しい（ゼニスには天空の頂点という意味があります）ものであります。
ひとつのエル・プリメロ・ムーブメントの製造には、9ヶ月の作業期間、20人の時計職人、5500の作業工程、50の切削加工（文字盤側）、77の切削加工（ブリッジ側）、１つの構成部品あたり5〜50の工程、そしてクラシックバージョンで18種類の金属を使用と、この名機は機械式時計にかけるブランドの情熱によって支えられてきました。

1970年代からのクォーツウォッチの台頭により、ゼニス社もアメリカ資本の企業に買収され、クォーツウォッチメーカーへの方向転換を発表。エル・プリメロの歴史は一旦途絶えてしまいます。
こうした中で時計職人のシャルル・ベルモは、機械式キャリバーの製作に必要な設計図、部品、工具類が破棄されることを危惧してそっと靴箱にしまい、工場の屋根裏に隠しました。几帳面な性格だった彼は、リストを作成して分類し、生産の全工程をノートに記録していました。
機械式時計が再び求められるようになっていた1984年には、彼が保管していた一式が再びゼニスへと返却され、エル・プリメロは奇跡的に復活することが出来たわけです。この勇気ある行動が無ければ、ブランドの存続は危うくなっていたでしょう。
こうしてゼニスに限らず、時計界になくてはならない存在となったエル・プリメロは、多くの大手メーカーがこぞって自社製品に採用していきました。

高級ブランドに相応しい物語性を誇るゼニスですが、忘れてはならないのがエル・プリメロ以来、30年ぶりに発表された超薄型自動巻きムーブメントの名機『エリート』です。エル･プリメロほどの知名度はありませんが、ジラール・ペルゴのGP1300を抑えて1995年の「Best Mechanical Movement」を受賞した優秀なムーブメントです。
デザインから最終段階の生産に持ちこむまで、実に４年半の歳月が必要となりましたが、エリートは基本デザインを変えないでコンプリケーション（複雑機構）を追加できることもひとつの条件として開発され、その結果エリート搭載モデルは、端正でエレガントなものからスポーティなものまで、さまざまな表情を持つシリーズが登場しています。